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猫の腎不全
猫の腎不全には「急性腎不全」と「慢性腎不全」がありますが、今回は、最も多い慢性腎不全についてのお話になります。
猫の慢性腎不全とは、腎臓の機能が徐々に低下し、最終的に体内の老廃物や余分な水分を適切に排出できなくなる病気です。特に高齢の猫で発生しやすく、10歳の猫の約33%が慢性腎臓病といわれ、さらに高齢になるとより増加していきます。
腎臓は、血液をろ過して老廃物を排出する重要な役割を担っています。しかし、腎臓の細胞は一度損傷を受けると再生しないため、慢性的なダメージが蓄積すると腎機能が徐々に低下していきます。
猫の慢性腎不全の症状
慢性腎不全の症状は徐々に現れるため、初期段階では気づきにくいことが多いです。飼い主様が早期に異変を察知できるよう、まずは以下のような症状に注意しましょう。
- 多飲多尿:水を大量に飲み、おしっこの量が増える。
- 食欲不振:以前より食べる量が減る。
- 体重減少:特に筋肉が落ちて痩せてくる。
- 嘔吐や下痢:腎臓が正常に機能しなくなると、胃腸の調子が悪くなることがある。
- 口臭が強くなる:腎機能が低下すると、体内に毒素が溜まり、アンモニア臭のする口臭が発生する。
- 毛づやの低下:栄養状態が悪化することで、毛並みがボサボサになる。
猫の慢性腎不全の原因
慢性腎不全の原因は多岐にわたりますが、以下のような要因が関与していると考えられています。
- 加齢:年齢を重ねることで腎機能が自然と低下する。
- 遺伝的要因:特定の猫種(ペルシャ、メインクーン、アビシニアンなど)は腎臓病になりやすい傾向がある。
- 高血圧:血圧が高いと腎臓の血管にダメージが蓄積しやすい。
- 尿路結石:尿の流れが滞ることで腎臓に負担がかかる。
- 感染症:細菌やウイルスによる腎臓の炎症が慢性化することがある。
- 食生活の影響:塩分やリンを過剰に含む食事を続けると、腎臓に負担がかかる。
猫の慢性腎不全の診断
猫の慢性腎不全を診断するために、必要に応じて以下の検査をすすめていきます。
- 血液検査:腎臓の機能を示すBUN(尿素窒素)、クレアチニンやSDMAの数値を測定する。
- 尿検査:尿比重やUPC-タンパク質の有無等を確認し、腎臓の状態を評価する。
- 超音波検査:腎臓の形状や大きさを確認し、異常がないかチェックする。
- レントゲン検査:腎臓の位置や結石などの異常の有無を確認する。
- 血圧測定:高血圧があるかどうかを確認する。
特に血液検査は重要で、腎不全の進行度を評価するために定期的な検査が推奨されます。
猫の慢性腎不全の治療
慢性腎不全は治すことが難しい病気ですが、適切な治療を行うことで進行をかなり遅らせ、猫の生活の質(QOL)を向上させることが可能です。
1. 食事療法
腎臓に負担をかけないために、以下のような食事療法食を取り入れます。
- 低タンパク:タンパク質の代謝産物が腎臓に負担をかけるため、制限する。
- 低リン:リンの摂取を抑えることで、腎臓の負担を減らす。
- 高カロリー:猫がしっかりと栄養を摂れるよう工夫する。
2. 薬物療法
- プロスタサイクリン(PGI₂)誘導体:腎血流を改善し、糸球体高血圧を調整することで腎機能を保護します。また、抗血小板作用や抗炎症作用により腎不全の進行を遅らせます。
- 降圧剤:高血圧をコントロールし、腎臓の負担を軽減します。
- トリプルバイオ:窒素老廃物を栄養源として利用する3種の善玉菌により窒素老廃物を代謝して腸内で吸収されずに排泄します。
- リン吸着剤:食事からのリンの吸収を抑え、腎臓への負担を減らします。
- 食欲増進剤:食欲が低下している場合に使用します。
- 吐き気止め:吐き気がある時に使用します。
3. 点滴療法
- 静脈点滴:腎機能が低下すると脱水になりやすいため、入院による静脈点滴で水分と電解質を調節します。また、腎血流量をあげて尿毒症を改善する効果もあります。
- 皮下輸液:静脈点滴に比べて治療効果は下がりますが、通院による皮下輸液で水分と電解質を調節します。また、腎血流量をあげて尿毒症を改善する効果もあります。
4. 再生医療
- 幹細胞を投与して腎臓の炎症や繊維化の抑制をもたらすことで症状の改善と安定化をもたらします。
5. 生活環境の見直し
- 新鮮な水を常に用意:飲水量を増やすことで、腎臓の負担を軽減。
- ストレスを減らす:ストレスが腎臓に悪影響を与えるため、リラックスできる環境を整える。
- 適度な運動:血流を促進し、腎臓の働きを助ける。
まとめ
慢性腎不全は高齢の猫におこりやすい深刻な病気ですが、早期発見と適切な治療で病状の進行をかなり遅らせることができます。定期的な健康診断を受け、日頃の食事管理に気を配ることが大切です。
けんご動物クリニックでは、慢性腎不全の治療を行っておりますので、お悩みの場合は一度ご相談ください。
また、当院ホームページ内の腎泌尿器科、予防ワクチン・健康診断もあわせてご覧ください。

